| あれから二週間ほど経った。 あの高村が再び現れて、二週間。 何件かの軽い依頼をこなして、何となく釈然としないまま日々 は過ぎていった。 「会社の警護を頼みたいんです」 その依頼が来たのは5月29日のことだった。 当然のことながら少し驚いた。 警護とはどういうことなのだろう。 「どう言う事ですか?」 「そのままの意味です」 岳は思ったままのことを口にする。 案の定、返ってくる答えは予想通りのものだった。 依頼主はエリートサラリーマン風のこざっぱりした男だった。 髪を綺麗にため、サラリーマンによくある油っぽい髪ではなか った。年のころは45歳ぐらいだろうか。中年太りをする様子も無 く、引き締まった体をしている。サラリーマンによくある嫌味な態 度も無く、好感の持てる男だ。顔も女ウケしそうな顔だ。 名刺を受け取ると、そこには驚くべき人物の名前が書かれて いた。 「白木商事の白木って、あの白木商事!?」 どうやら望も同じだったようで、目を丸くしている。 やがて大声で言ってしまったのに気づき、恥ずかしそうに顔を 赤くしている。 「あ、はい、多分その白木商事です」 そんな望の態度にも、嫌な顔ひとつせず、人懐っこいはにかん だ笑顔で答えた。 「社長さんでしたか」 「ええ、まだまだ未熟なんですが・・・」 こうは言うが、白木社長と言えば36の時に会社を設立し、あ れよあれよと言う間に大企業へと育て上げた男である。 人望も厚く、信頼もある。 今では海外進出を果たしているほどだ。 「でも、どうしてそんな大企業の社長さんがこんなところへ?」 こんなところとは失礼な、と岳は突っ込もうとも思ったが、それ もそうなので止めておく。 「はい、ある人からこちらの話をうかがいました」 「ある人、ですか?」 岳は眉間に皺を寄せ、腕を軽く組む。 「不思議な現象の解明と、解決をしてくれると・・・」 岳はそれでやっと、あぁ、と納得する。 岳と望。たっと二人のこの会社は、表はただの何でも屋だが、 依頼によってはあの力を使う事がある。 それは悪質な霊だったり、呪いの類だったり、様様だ。 しかし、そちらの方は表立って宣伝しているわけではないの で、めったに依頼はこない。が、いつのまにか、広まっている のか、最近ではこうしてやってくるのは特に珍しいことではない。 「先日、弟の働く会社で、こちらのおかげで助かったとの話を聞 きました、それで報酬は・・・」 ――――あぁ、あれか。 つい先日、この類の依頼があった。 小さな商店の店先に、妙な噂が立ったので調べてほしいとの 依頼であった。妙な噂と言うのは、時々、お店に買いにくるお客 さんが、妙な女の子を見るとのことだった。 調べてみると、そこには小さな少女の霊が迷子になっていた のだ。その片足はなく、話を聞くと交通事故で亡くなったのだそ うだ。 その後、望があの世への案内人を召喚し、あっさりと解決し た。 「コーヒーです、どうぞ」 何時の間にかキッチンに行っていた望が、コーヒーをテーブル に置く。 「ありがとうございます―――――あの、受けていただけるんで しょうか?」 岳はしばし黙る。 白木はそれを不安そうに見守る。 ――――めんどくせぇ。 岳の正直な気持ちだった。 報酬は良い、報酬は良いのだが、いかんせん時間と手間が かかる。この間こそあっさり片付いたが、そうでなければ、下見 に始まり、土地の調査、聞き込みやら何やらと、面倒くさいこと この上ないのだ。 「申し訳ございませんが・・・」 お断りします。 と言いかけて、足に衝撃を受ける。 「う"・・・」 そちらを見やればにこにこ顔の望。 ――――最近仕事無かったんだから受けろ。 顔こそ笑ってはいるが、目が笑ってない。 ここで断れば後でどうなるかわからない。 岳はがっくりと項垂れた。 「わかりました、お受けします」 白木の顔からホッと力が抜けた。 「こちらです」 案内されたのは、白木本社ビルだった。 「ほぇ―――――」 「でかいな」 高層ビル。 平たいビル三軒が、三角形を形どり、ある階ごとに渡り廊下 が設置されている。 「すごいね岳!三角形だ!」 望ははしゃいでいる。 岳は何か無いかと辺りを見渡してみるが、何も感じられる気配 が無いのでおかしいなと首をかしげる。 「白木さん」 「はい」 「先日の私達の仕事の事を知ってこられたんでしたら、何故、警 護なんですか?」 そうなのだ。 あくまでも、白木はあの仕事を聞いてやってきたのだ。 ならば何故、会社の警護なのか。 「・・・もうすぐ、わかります」 意味深な言葉とともに、白木は二人に背を向けて会社の方へ と歩き出した。 「さ、ついてきてください。会社の中を案内します」 二人は顔を見合わせて、白木の後ろについていった。 「ここが、受付です・・・そしてここが・・・」 二人が使いそうなところを、白木は案内してくれた。 その間も、岳はそれらしい気配がないか探ってみるが、それら しいものは見つからない。 「おい望」 「ん?なに?」 「お前、何か感じるか?」 「うーん、今ンとこそれらしい気配がないんだよねー、悪霊・・・ じゃなけりゃ妖怪かなぁ・・・?」 「まぁ、もう少し調べてみよう」 二人がこそこそとやっていると、白木が扉を開けた。 「ここが、社長室です」 社長室は、一階の一番奥にあった。 社長室と言うぐらいだから、最上階にあるものだとばかり思 っていたが、予想が外れて二人は首をかしげる。 「一階なんですね」 「はい、お恥ずかしい話なのですが、高いところは苦手でして」 困ったように笑う白木。 しかし、どうもさっきの言動が気になって仕方ない。 ”・・・もうすぐ、わかります” ―――――もうすぐわかるってどう言う事だ・・・? 「さぁ、一通り案内しましたから、一休みしましょうか、休憩室の コーヒーは美味しいんですよ」 「あ、はい、そうしましょう」 と言いかけたところで、悲鳴が上がる。 『キャァーーーーーーー!!』 「!?」 「なんだ!?」 「・・・またか」 白木は渋い顔で首を振る。 「どう言う事ですか!?」 「行って見ればわかりますよ・・・」 岳は沈む白木の肩をゆするが、白木の反応は思わしくない。 「クソッ」 岳は社長室を出、走り出す。 そのすぐ後ろに、望。 途中、社員に聞きつつ、悲鳴の上がった目的地へと向かう。 「ねぇ岳、この会社、おかしいよ」 「あァ!?」 走りながらので、声が知らず大きくなる。 「だから!この会社!」 「あァ、どこもかしこもおかしいとこだらけだ!!」 二人がまず疑問に思ったのは白木が会社案内をしている最 中だった。玄関の天井のすみに、小さなお札が貼ってあったの だ。 普通、このような大きな会社は、来客も多いため、イメージダ ウンにつながるような事はしない。 そしてもう一つ、社内の人間が白木に連れられた二人に、哀 れむような同情の眼差しを向けるのだ。 そして一番驚いたのは、あの悲鳴があったにもかかわらず、 社員は平然と仕事を続けているのである。 「どー言う事なんだ全く!!?」 「とにかく、行ってみるしかないよ!」 しばらく走り、階段を駆け上がってついたのは、3階の海外事 業部。 室内からは激しい物音と奇声が聞こえる。 「どうした!?」 いきなり侵入してきた二人に、社員は一瞬目を丸くするが、す ぐに怯えた表情で、室内の奥を指差す。 「ガァァァァ!!」 見れば一人の女性が暴れ狂っている。 「!?」 二人は驚愕に目を見開くが、すぐに我に返り、暴れる女性へと 駆け出した。 女性は二人に気付き、こちらを振り向く。 その顔は完全に理性を失った醜い顔へと変化していた。 岳はとりあえず動きを止めようと、体当たりを仕掛けるが、易々 とかわされてしまう。 「こいつ・・・」 何かに操られているとしか思えない。 女性は軽々とデスクを持ち上げると、望へと投げつけた。 「うわっ!?」 いきなり矛先をこちらに向けられて、望は召還呪文を唱え始め る。 しかし、間に合わない! 「望!」 岳はすでに駆け出しており、望の襟首をつかんで引っ張り上 げる。 そこへデスクが飛んできて、ものすごい音と共にひしゃげてい る。 「ボーっとしてんな!」 「わかってるよ!」 岳は再び女性へと駆け出す。 望は胸の前で両手を合わせ、ぶつぶつと呟いている。 「ギギッ!ギギギギギ―――――!」 「望!」 「我呼びかけに応え、契約を結びし者よ!我前にその姿を現せ! 出でよ!シャドウ・デーモン!」 岳の影が収束し、やがて大きな塊となる。 「ヤツの正体を暴け!」 るごぉぉぉぉぉぉ! 雄叫びを上げて、影は女性へとつき走る。 「ギ――――――!」 女性はデスクをその影に向かって投げつけるが、効果は無い。 るごぉおぉおおおぉおおお!! 影は女性の影へと入り込む。 「ギ・・・ギギィ・・・・」 女性は苦しそうに頭をかかえる。 岳は逃すまいと、後ろからはがいじめにする。 望の影はさらに女性の影を侵食していく。 「ギ・・・ギギギァ――――――!!」 シュンッ 黒い靄のようなものが、女性から抜け出していく。 それは一瞬で消えていった。 「ちっ、逃げられたか・・・」 岳は女性を抱えなおし、床にゆっくりと寝かせる。 「シャドウ、もー良いよ、ありがとう。またよろしくね」 るごぉぉお。 こちらはあちらの世界に帰っていただいた。 「・・・どう言う事なんだろうね」 「あぁ、社長を問い詰めるしかないな」 そうして二人は再び社長室へと、足を運んだ。 |
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