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忘れていい、と。


忘れていい、とサンジは言った。


























血刀、一閃。



倒れ伏した相手の背中がびくりずくりと蠢き、波立ち、
血の泡を歪めひらいた口から、ごぼり、噴き吐いて、
最後に電流のように激しく痙攣して、
息絶えた。


死んだ。



殺した。





じわりじわりと地に血が這う。


どす黒い赤、と言うが、暗澹たる黒い土に呑まれてゆく血液は、
赤、
その色ではなく、むしろ、色を許されない、色など持てないなにものかのように、
ひたすらに、地へ地へ地へと。
沁みてゆく。
濡らしていく。
貪婪に貪欲に、放恣に、あるいはやさしく慰撫するかのように、地は、土は、それを呑む。
呑み、受け入れ、そして、何事も無かったかのように、乾くのだろう。
上に乗せた男の屍骸など、その身で養う虫に獣に鳥に喰わせ、
最後にしらじらと残った骨を、さらりと風に撫でさせ、
朽ち、崩れおちてくるしろい粉を、ゆるりと自分の裡へと含み入れるだろう。

生きた男。

生きていた男。


それがうしなわれていく。







うしなわせたのは自分だ。







罪も恥も悔いも怖れもなく、
ゾロはその屍骸を見る。

挑んできたものが負けた、それだけのことだ。
罪も恥も悔いも怖れもあるはずもない、それがあるのならば却って侮辱だ、この死にゆく男への。


見ることが、殺した自分、ほろぼした者が為す、
喪 であるから。

それであるなら。



この記憶が、この屍骸の記憶をこの自分の脳内に抱えていくことが、
せめてもの手向けであるので。
ころしたもののなせることであるので。




見る。


みる。




しんだおとこ。



いきていたおとこ。





その男が抱えていた記憶、それが脳細胞のなかで死滅するまで、
消滅していくまで、せめて、
見る。




いつかこの記憶を忘れるとしても、
見る。




























忘れていい、と言ったのは、サンジだ。

俺を忘れていい、と。




いつのことだったか。

それを言われたのはいつだったか。



忘れた。

それは、もう忘れてしまった。



思い出せるのは、奴の言葉だけだ。


忘れていい、とわらいながら言った、男の声、表情、言葉だけだ。







奴とは一度だけ、寝た。




それがいつかも忘れた。


どこかの港に寄った時だった、それだけは憶えている。


船番で残っていたら、雨になった。

買い出した食糧を積み込みにきた奴が、荷が濡れる、手伝え、と怒鳴るので、
ラウンジで昼寝を決め込んでいたのを中断して、黙々と荷運びをした。
子供が何人、と入りそうなデケエ粉が何袋だ、
ともかくも阿呆らしいまでの量の食糧を、野郎二人で運び入れた。
その礼だ、ということもなかっただろうが、
雨に降り込められたラウンジの中で、奴が珍しく穏やかな顔で茶を淹れた。
それを啜りながら、話をした。
雨宿りみてえな会話だった。
何の気もない、本当に、何の変哲も無い、ただ、雨が止むまでの暇潰しな話。
ただ、互いにしてみれば、珍しく穏やかな会話。
いや、他の時でも、別に刺々しい会話だけを交わしていただけではないだろうに、
この時の互いの口調の緩やかさは、殊更に記憶に残っている。
他の船員も居ねえ場所で、同い年同士の、別に気負いも衒いもない、
淡々とした会話。力の抜けた日常会話。
それが何、とでも無かっただろうに。

不意に、奴が、その会話の途切れた隙間、間隙に、

俺と寝るか、

そう言った。



それを笑いもせずに見返したのは何故だったのか。


見返し、何を返事として言うまでもなく、
ごく普通の足取りで近付き、奴の身体に腕をまわしてキスをした。
奴もそれがまるで普通のことのように、口をひらいて応えてきた。

なぜだか判らない。
判らないが、身体が動いた。

当然のように、急くでもなく、互いに一枚一枚服を脱ぎ、裸になって抱き合った。
何を言うまでもなく、抱き合った。
撫で合い、舐め、触れ合った。
見た。
互いを見た。
視線が互いを知りたがった。
匂いも、音も、感触も知りたい、そうただただひたすらに思った。

欲した。
しずかに、からだがからだをもとめて、在った。
互いに、在った。

発情期の興奮、というよりも、何か、何故だか、
そうすることが決められていたかのように、自然に身体が動いた、
動いて、互いの身体を知りたがった。

知りたい、と視線を向けられれば、拒まない。拒むはずもない。
ひらいて、相手が見たがるところを全て見せた。
視線の前に、全部を晒した。
見られたところを触られれば、撫でられれば、気持が良かった。
気持がいい、と、性器が素直に勃起していくのが判った。
自分以外の男性器を見ても嫌悪も無く、互いの肌に興奮して勃起したそれを見た。撫でた。
気持がいい、と息が声が耳に届けば、それを舐めた。
すごく気持がいい、と震える肌が示せば、それを啜った。
もっとコイツを知りたい、コイツがもっと昂ぶればどうなるのか知りたい、
こうすればどうこの身体は撓むのか、
どうこの身体は性交するのか、
どうすればこの身体は気持がいいと笑うのか、
気持がいいと震えて精を放つのか、
それを知りたくて、見たくて、身体全体で身体全体を愛撫した。
身体をひらいて、ひらかせて、昂ぶって、笑った。

ためらう気持は生まれなかった。
不思議なくらいに、同性同士で交わる、交わりかけていることに羞恥も嫌悪も禁忌も無かった、
ごく自然に、まるで、今この時間にこうなる、と定められてでもいたかのように、
当たり前のようなカオでココロでカラダで、抱き合った。
勃起したペニスを擦りつけあって、気持がいい、と抱きしめ合った。

入れてもいいか、と聞けば、いい、と答えられた。

挿入はやはりキツい思いをさせたらしかったが、サンジは自分に突き刺さっていくゾロのペニスを、
眼を逸らしもせずに見つめていた。
サンジへの挿入に息を荒くしていくゾロを、まるで自分がゾロを抱きしめて挿入しているかのように、、
まわした腕で抱きしめ、なだめるように背中を撫でた。

体温そのものをいとおしむかのような愛撫。

勃起して張り詰めたペニスを咥え込んだ肉の口は熱く、蕩けた濡れた内臓の柔らかさでゾロを煽るくせに、
その当のサンジは、息を荒げ肌を紅潮させているものの、わらっていた。
ひろげ、受け入れた肉が痛むらしく、咽喉元を晒して喘ぐくせに、
やわらかい視線。 やわらかい笑み。
抱いているゾロは、その視線に抱かれる。

いい男じゃねえか畜生。

ゾロもわらう。
自分の笑みも同様に柔らかいことを、ゾロは熱い滾りに蕩けかかる脳で悟る。

いい男じゃねえの、畜生。

サンジがわらう。


奪うのでも犯すのでも与えるのでもなく、そのままの等身大の身体でもっての、交わり。

同じ目線で同じ地点で同じ熱さで、交わりあって、抱きしめあった。


一度きり。



なにも言わないままの、
好きだとも、惚れているとも、言わないままの交わり。


一度きりの、交わり。



















船を降りると決めた時にも、サンジは何も言わなかった。

他の仲間達と同様、笑って、元気でやれよ、とだけ、言った。
勝って来い、と。
あの一度きりの交わりを匂わす表情も言葉もなく、
ニカリと不敵な咥え煙草でもって、笑った。





何を言って欲しい、と望んだ訳でも無い。

何を言いたいと望んだ訳でも無かった。






ただ、この男を。


憶えていたかった。


この船から降りる前に、この船に乗っていたこの男を、
この船で抱き合った男を、
誰よりも。








ラウンジに深夜に行けば、サンジが居ることを知っていた。

だから行った。
行ってどうするつもりもなかったが、
その姿を見たかった。
ただ、見たかった。

酒か、訊いてくるのを首を振って断り、数秒後にやはり気が変わっていつもの火酒を貰った。
ごろりと転がされた氷の上から、透明な酒。
その小さな、香りの高い滝を黙然と眺めて待っていたら、
きゅぽん、小気味のいい音をたて、その滝を生んでた瓶に栓をしたサンジが、自分を見ていた。



見返した。



何も言わないまま、何の色もなく、ただ、瞳孔で互いの姿を映し合った。





もう交わるまでもない、そう知っていた、互いに。


交わらなくても、
言わなくても、

もう。




視線すらも愛撫になるこの男に、なにを言える。












サンジが言ったのは、この時だった。

忘れていい、と。



テメエは俺を忘れていい。


わらった唇が、そう言う。
ゾロはそれを聞いていた。
穏やかに、淡々とサンジの声は流れていた。
あの深みのある、艶のある声が、ゾロに向かって、話していた。

忘れていい、と。




忘れても、いい、構わない、と。




テメエも俺も、ただの蛋白質のカタマリだから。

そんなモンでできてるから。

テメエの細胞は、生まれ変わって、死んでいく。
俺と、俺らと過ごした時の細胞なんざ、順繰りに上の方から死んで剥がれて、
テメエから無くなっていくんだ、ゾロ。
テメエはいつまでも今のテメエのままじゃねえ、
テメエのカラダって奴ぁ、繰り返し生まれて、生まれ変わっていくんだ、ゾロ。

記憶もだ。

ぽろぽろ、皮膚の垢だの抜けた髪だのクソだの、そんな老廃物と一緒に、同様に、
今、って時点に遠い記憶はどんどん抜け落ちる、
ぽろぽろぽろぽろ、剥がれ壊れてく、忘れられてく。
新しい記憶が上塗りされてく。
忘れるな、忘れない、って言っても、そりゃムリだ、
しょうがねえよゾロ、そういうもんなんだ。

だから、忘れていい。
構わない。

テメエも俺も、おんなじトコに硬直ってる訳にゃいかねえんだ、
歩いて、進んで、ぽろぽろとなにかを落っことして、忘れて、
ああそうだな、テメエなんざ腕かなんかも落っことしやがりそうだ、
ともかくも、そうやって落っことして、忘れてくしかねえイキモンだからよ。

でも。

脳の底では、奥深くふかくの脳では、記憶が、全ての記憶が残るっていうぜ。ゾロ。
表層にゃ出てこねえ、取り出すことも忘れてる、そんな深い深いとこにはな、
生まれて以降の記憶がすべて、だいじにしまってあるらしい。
ふとした拍子に、忘れた記憶がぽろりと出てくることもあるって言うぜ。

すべてだ、
すべての記憶は、俺らの裡にある。

凄ェ話じゃねえか。なあ。

ゾロ。

テメエは迷子だから、脳内もぜってぇ迷子だろう、
これから船を降りて行っても、絶対にぜったいにまた迷うだろう、そりゃもう確定だ。
でも、テメエは自分の目指す道だけは、それだけは間違わない。

迷わない。

そのはずだ。


だから、忘れていい。

忘れても、テメエの裡には俺の記憶が残ってやがる。

テメエは知らずに俺の記憶を脳内に抱えこんだまま、大剣豪でもなんでもなりやがれ。
それでもって、みんなみんな忘れた頃に俺のメシの匂いを嗅ぎやがれ、
このスゲエ旨そうなメシの匂いはどっかで、って俺のことを思い出せ。
テメエのカラダを、蛋白質を、ずっと作ってきてやった俺のことを、思い出せ。

テメエが俺を忘れても、
否も応もなく、テメエの脳味噌の中で、俺の記憶は在る。
消しようもなく在る、
たとえ、また逢うことがなくてもだ。



テメエがたとえ旅の途中でくたばりやがっても、
いつかその全ての細胞が呼吸を止めて、じゅ、ってすべての体熱が細胞から抜けて溶け流れて消えても、
その最後の一瞬まで、テメエは俺の記憶を抱えてやがんだ。

ざまみろ。



だから、忘れてかまわない。

俺もテメエを忘れるかもしれねえ。

でも。





俺らの脳は、憶えているから。



互いを。























バカが。


ゾロはうすくわらう。



忘れていい、か。


忘れねえ、と言わない男を、忘れられるか。
忘れてやれるものか。


誰が。







血刀、一閃。



刀から赤い飛沫が飛ぶ。

血。

倒れ伏した男の、血。


死んだ男の血。



死んだ、すべての脳内の細胞が死に絶え、
それが抱えていた記憶が、ほわりと空中にはなたれた最後のあわい体熱と共に、
消えた、その男の血。


ころす、ということは、記憶もすべて消滅させることで。
この男とつながっていたひとの記憶、それをすべて無に帰してしまうことで。


その男が最期の息を、口中から吐く、
その息のぬくみが空気に溶けるのを、ゾロは黙然と見守る。


死んだ、と見る。


見て、その記憶を抱えていく。





何人。





何人、こうして俺は憶えていくのか、そう思う。









修羅の道。












脳には無数の記憶を抱え込んで、斬る、血刀を閃かせ疾走する、ずっとだ、ずっとずっとずっとずっとずっと、
最強のものとして、ずっと。


それでも、

この道をゆくと、きめた。



だから。








生きる。

生きる、この記憶を全て抱えて、忘れても、取り落としても、逃がしても逃れても、
逃れようもない記憶、
逃すかと掴み求め喰らう記憶、
それを抱いて、
生きてこの道をゆく。










いつかまた、

ゾロは思う。



いつかまた、逢おう。



かならずだ、また、また逢おう。




また抱き合おう。








忘れていいと言って笑った、あの男と。













それまでは、互いに、それを抱えて、ゆく。


生きて、また逢うまで、ゆく。





互いの記憶。






忘れない記憶。











互いに、脳内に組み込まれた記憶として、生きる。


互いの細胞の中で、忘れても、忘れずに、在る。




共に生きた男の一部分として。

からだのなかに。




















死んだ男から眼を離す。

ゾロは歩きだす。



大剣豪となった男。
同時に、蛋白質のカタマリである男。一匹。

それが、ひろいひろいそらの下を、あるいていく。



記憶を抱えて。



何度でも生まれ、よみがえる、記憶を抱えて。















(end)





kaminyoさまより頂きましたvDLF作品2つ目ですv


2004.11.24


                 

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「 生きた男の一部分 」