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100のお題より

42「あめ」

 

   『雨の夜の語り』

      〜「右近と左近の距離」の番外編?〜

 

 しとしとと降る雨。

 山に囲まれた吾妻の国。雨が降れば、じとじととした日となり、人々の活気は消えうせる。

 そんな日は静かで勉学するには良い日だ。と言うものもあれば、そんなことをしていられるか。というものもある。

 継はまさしく後者であった。

「あぁ〜。暑い。暑い。こう毎日降られるとかなわん」

「・・・」

「暑い。暑い。あ〜つい!削り氷が喰いてぇなぁ」

「・・・」

「黙ってないで何か言えよ、橘」

 日頃ならば持ちもしない扇をはためかせ、継は橘のもとにいた。はためかせ、とは何とも優雅であるが、ただ暑いのだ。湿気からくる暑さはたまらず、衣が肌にまとわりつく。継が暑いと騒ぐのも無理のないことであった。

「そうだなぁ・・・」

 やっと口を開いた橘は汗をにじませながらも余裕の表情である。微笑を口元に含ませ、継を見やる。

「ん?お前、平気なのか?この暑さ」

「いやぁ・・・・」

 のんびりとした口調は続き

「お前うるせぇ」

と笑った。

橘は城の書庫の管理を任されている。書物は貴重な財産。雨など書物にとれば天敵のようなものだ。橘は整理も兼ね、雨の降る日は雨漏りなどしてはいないか書庫へ来ることが日課であった。

 述べたように、書物に雨は天敵。書庫には小さな陽を入れるための窓が二つのみ。風も吹かなければ、むわっとした空気が溜まるのは仕方のないことである。人であれば不快と思わないものがいるだろうか。いや、いないだろう。橘とて例外ではない・・。

「うるせぇって言ってんだ。暑いのは俺もだ。わかったら静かにしてやがれ」

「だってなぁ・・・」

 ばたばたとあおぎながら見上げた橘は恐ろしい。

「わかりましたか、継様?」

 微笑。

 明らかに恐ろしさを感じさせる微笑である。

「あ、はい」

としか言いようがなかった。

 継は腰を上げると、すごすごと書庫を出た。動くとさらに大気はまとわり付き、不快極まりない。洗いたてのはずの衣がずっしりと重い気がする。

「つまらねぇなぁ」

 ぼんやりと天に呟くが、答えるものはなく、雨は槍のように降っている。どこか木々たちが嬉しそうなのを感じる。春に見たおたまじゃくしが成長したのか、蛙の声が幾重にも響き渡る庭は静かなものであった。

 

「良しっ」

 手習いの為に反故になった紙を敷き詰め、何とか今日の仕事は一区切りである。

「梅雨になったからなぁ。また変えねばならないだろうが、しばらくはこれでいいだろう」

 橘は満足気に棚を見て確認した。紙を敷き詰め、湿気を取るのだ。その為に橘は一年間、自らが手習いをした紙を捨てたことはなかった。彼はそういう男である。

 あ、そういや継はどこ行ったんだ?

 仮にも主人筋の者にあれだけのことを言っておいて、すっかり(いや、むしろすっきりだろうか)忘れているかのようだ。覚えてはいても悪気はない。よって、謝罪の気持ちなど塵ほどもないのだ。

「しかたねぇなぁ。探してやるか」

 もう一度軽く書庫を確認し、雨漏りなどの確認も終え、橘は書庫を出た。

 独特の雨の香りが鼻につくが、それは嫌なものではない。

 庭の木々が喜んでいるな。お、蛙ももう鳴きだしたのか。夏だなぁ。

 書庫の中に比べればなんのことはない。雨の少しひんやりした感覚が心地よい。

 思いつつ、廊下を歩くとすぐに継は見つかった。

 が、寝ていた・・・。

「おい、継。起きろよ」

 声を降らせてみるが、見事に反応はなく、眉間にしわを寄せつつ熟睡している。

 こんな顔してるのに、何で起きないんだ?

 不快そうな顔であるのは誰の目にも明らかであろう。が、継は全く起きる気配はない。

「おい、起きろよ」

「おい!起きろよ?」

 続けざまに言ってみるが変化なし。

 しかたねぇなぁ。

 ガッ!という音共に「起きろよ!」と声をかけると、やっと継は瞳を開いた。

「あ、橘?おはうう」

「いや、言えてないぞ?」

「おう。煮えてないぞ?って何がだ?」

「いや。もういい」

 とろんとした瞳は、大柄な体躯と何とも不釣合いである。国の中でも屈指の武者であるはずの若者。家柄も文句なしのこの男が寝起きは何とも情けないことを、知っているのは数少ない・・・。

 目をこすりつつ、「ん?」と何かに気づいたのか、橘に

「何か・・・お前頭殴った?」

と言った。橘もそろそろ意識がはっきりしてきたなと思ったのか、思わないのか

「いや、殴ってない。蹴ったんだな」

と暑い中にも爽やかに笑った。

「そうかぁ。蹴ったんかぁ。じゃあ痛てぇはずだな」

「そうだな」

 二人で笑い合うと、軽い沈黙が流れる。

・・・・・・・・

 そうして継が起きた。

「はぁ?!てめぇ!何蹴ったとか言ってやがる!」

「ああ、起きたんだな。良かった良かった」

 さて茶でも持ってくるかなと橘は背を向ける。謝罪は全くない。

 去っていく橘の背中を送りながら、怒る気もせずに継は頭をさすっていた。蛙の声があざ笑うかのように大合唱を始める。目に見えないだけ、無性に腹立たしい。

 けど、まあいいか。

 ようやく橘の仕事も終ったことだ。これでやっと暇つぶしが出来る。

 

「お前、今日は確か漢学か何かの日じゃなかったか?」

 酒じゃねぇのかよ。

 文句を言いつつも、茶・茶菓子を口に放り投げる継に橘は言った。

「そうだ。よく知ってるな」

「ああ。そりゃ知ってるさ」

 お前が逃げると必ず俺のところに使者が来るからなぁ。もう覚えたさ。

「でも今日は逃げたのではねぇぞ。逃げる前に捕まったからな」

「それで?」

「この暑さじゃどうせ講義してもしかたねぇから、橘と女の話でもして来いって」

「女?」

「ああ。よくわからんがこんな雨の日には女の話でもしてこいって」

「俺でも月くらいにはなれるだろうって。何だろうな」

 ・・・・ああ。なるほどな。

「悪いが俺では無理だろう。源氏など深く読んではいないからな」

「は?源氏?」

「いや、いい」

 おそらく継の師は源氏物語のある場面を思い描いて言ったに違いない。雨の降る夜、頭の中将、そして仲間と共に理想の女人について語る場面を。継に察して欲しかったのだ。これも間違いはないはずである。

 が、継はわかっていない。継を月に例えたのは、光源氏を太陽とし継を皮肉ったのであろう。無論、継にはそれすらもわかってはいないが・・・。

 何とめでたい奴。

 雨はなおも降り続き、一向にやむ気配を見せない。見上げる天は重苦しく、冷たい。

 紫式部が書いたという源氏物語の中の天もこのようなものだったのであろうか。確かに明るい話でもしなければならないように感じる。

「姫様〜?」

 明るい女の声が響いた。

「まあ、橘様。継様。このようなところでお話をしていらっしゃったんですか」

 縁側で茶とは『こんなところ』とは言わないだろうが、雨の日となれば別である。侍女は「濡れてしまいますよ。手ぬぐいでも用意させましょうか」と言葉をくれる。

「いや。いい。それより姫がどうかしたか?」

「はい。継様が来られていると聞き、橘様と二人で話しているならば姫様もご一緒したいと。お二人を探しに行かれたのです」

「そうか。ではまもなくこちらに来られるでしょう。心配しなくてもいい」

 侍女は橘の笑顔を見ると安心し、「では」と立ち去っていった。

 侍女との会話を全て押し付けていた継は、茶菓子を食らいながら

「俺とは随分違う応対だなぁ」

 ぼりぼりと音を立てていた。

「ああいう対応して欲しいのか?」

「いや、そうじゃねぇけど」

「じゃあいいだろ」

 廊下の軋む音が響く。

 桜がこちらに向かっているのだろうか。橘はそう考えると、侍女にはああは言ったが、やはり安堵を感じずにはいられなかった。城の中にいることはわかっても、いないと言われれば心配になる。

 こっちに来られるかな。

 明らかに気はそちらに傾いている。

「桜が来るか?」

 継も橘の様子から察した。そして珍しくも顔を曇らせる。

 桜に気が傾いているとはいえ、それに気づかないほどの間抜けではない。

「どうかしたのか?」

「嫁が来る」

「は」

 嫁・・は来るものだろ。いや、そうでなくて、何かこいつは悩んでんのか。

 桜の足音が近づく。

 思いがけず、女の話になっているが物語の世界とは異なる。あちらは優雅な貴族社会。衣も優雅なものだろう。が、こちらは男武者二人。食うは少ない茶菓子と茶。比較にもならない。

「いや、嫁が来るのはいいんだが。女って桜くらいしかしらねぇからさ。俺んとこも母上は他国から来たからな、説教されたんだよ。少しは嫁のことも考えてやれってさ。考えるって何をだよなぁ」

 曇らせる・・・とは間違いだったようだ。照れと困惑が交じり合った顔であった。

 武芸一筋のこの男がこんな表情を浮かべるとは。橘にとって、それは喜びと困惑に感じるものであった。

 この男がねぇ・・・

「で、お前は何話に来たんだ?」

 にやにやとした顔を直しもせずに継を覗き込むと、情けない瞳をした犬のようであった。

「まあ、寝起きを見せなきゃ平気だろ」

「寝起き?」

「ああ。お前の寝起き最悪。それ以外は案外いい男だよ」

 最悪と言われはしたが、今、継の瞳には喜びと照れが光っている。

 いい男。

 そう思うのはこちらもだ。言ってやりたかったが、それは何とも照れくさい。

 そうして口に茶菓子を放り投げた時。

「見つけた〜!!ここにいたのね!」

 廊下の向こうから桜が見えた。

 隣を向けば、橘が嬉しそうに目を細めている。

 桜も鈍感だからなぁ。

「お前の紫の上がやってきたなぁ」

「ああ?!」

 振り向いた友を見て、継は心底いい男だと感じる。

 が、継が源氏物語をどれほど知っていたのかは謎であった・・・・・・。

 

 

<あとがき>

6565キリ番のはなさんへ贈ります。

これは前に書いた「右近と左近の距離」に出てくる人たちです。

はなちゃんのリクエストは「橘・継中心で桜も出てくるもの」だったんですが、桜が・・・。

すみません。ごめんなさい!

これでいいでしょうか?

良かったら感想下さい。

 

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