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I miss you

 

あれから、どのくらいの時が経ったのだろう。

都会の夜は、一人でいると孤独で凍えそうになる。

クラクションの音が遠くから聞こえ、無数の赤いテールランプが列をなして走っていく。スモッグがかった夜空を見上げると、夜の街を照らす月だけが寂しそうにぼやけて見えた。

あの頃、私はまだ学生で、子供だった。ただ困らせたくなくて、嫌われたくなくて、それが私の全てだった。忙しい彼を煩わせはしないかと、電話をすることさえ恐れていた。そして、素直なかわいい女になるには、私のプライドは少し高すぎた。ただ愛していると言って欲しかった。でも、そんな気持ちが私の口から出ることはなかったし、彼は勿論ひどく年下の私にそんなことは言ってくれなかった。

そう、私は子供で、そして彼は、大人だった。

あの時もっと素直になっていたら、何か変わっていたのだろうか。今でも夜の街を一人歩いている時には、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。今でも、気づくと彼に似た後ろ姿を目で追ってしまうと言ったら、あの人は驚くだろうか。

 

 

 

 それほど大きくない部屋は、それでも私一人で過ごすには少しばかり大きかった。

 私は、一体どうして彼を好きになったのだろうか……。幼い頃に聞いた御伽噺のように、ぼやけた記憶をつなぎ合わせる。しかし私は、半ばでその作業を放棄した。理由なんてあるはずはなかったから。恋はいつも突然で、ある日、衝撃的に思い込んでしまうのだ。あの人が好きだと。それは春風のように優しい『愛』なんてものとは程遠い、嵐のように激しくて木枯らしのように肌寒い思い。

夜は、いつも恐ろしいほど静かだ。こんな夜になると、私は決まって彼のことを思い出す。そんなことをしてももうどうにもならないと分かっていながら、それでもあの深い瞳と、心地よく響く低い声が蘇ってくる。

 そっと電話を手に取ってみる。これでどうしようと言うのだろう。

頭の中の冷静な自分が、受話器を握る私に言い聞かせる。やめなさい。そんなことしたって、もうどうにもならないのよ。私と彼との間に横たわる静寂は、現実のそれとは比べ物にならないくらい絶対的なものなのだ。そして、時という怪物がその静寂を決定的なものにしてしまった。

受話器を握り締めながら、私は凍りついた。

 震える手で、彼の番号をプッシュする。いけない、今ならまだ引き返せると思いながらも、私は何かに操られているかのようにぎこちない動きを止めようとはしなかった。何度か電話の呼び出し音が鳴る。電話を置くなら今しかない。でも、私はそうすることが出来なかった。

「もしもし」

 心臓が止まるかと思った。

 あの頃と少しも変わっていない声に、どこか安堵し、同時に私は彼に電話したことをひどく後悔した。

「私、……分かる?」

「ああ……久しぶりだね」

 彼はそうとだけ言うと、しばらく沈黙した。

それから何を話したのか、よく覚えていない。きっと、笑ってしまうような他愛もないことだったと思う。ただ、これがすぐに醒めてしまう明け方の夢でなければいいと思いながら、私は必死で話し続けていた。私の話を聞きながら、あの頃のように、彼は穏やかな声で相槌を打った。

やがて私の話が終わってしまうと、二人の間にはまた拭い去れない静寂がじわじわと浮かんでくる。二人の間の距離が縮まることは、もう永遠にないのだ。受話器を握ったまま私の体が震える。

「君は――本当に僕を好きだった?」

 受話器の向こうで相槌ばかりだった彼が、初めて発した言葉らしい言葉がそれだった。それが、大人だった彼から私が聞けた、最初で最後の心からの言葉だったのかもしれない。

「すごく……好きだったわ」

 まるで喉がカラカラに渇いてしまったように、かすれた声でそう言った。

「僕は――」

「いいの」

 それは必死で大人のふりをしていた私が、今までずっと聞きたかった言葉なのかもしれなかった。しかし、同時に私は、狂おしいほどその言葉が聞きたくなかった。

「聞きたいけど……それは秘密にしておいて」

 いつか、この電話で彼の本当の気持ちを聞かなかったことを後悔する時がくるかもしれない。それでもよかった。なぜなら、私達の距離はきっと永遠に縮まらない。二度と。永遠に。

「さようなら」

 彼からも静かなさよならの言葉が聞こえ、そして電話はもう彼の声を聞かせてはくれなかった。静かな部屋に、電話機の冷たい機械音だけが聞こえている。

もう二度と繋がらない電話を握り締めたまま、私は黙っていた。

私は一人だった。

夜の闇にぽっかりと口を空けた穴に落ちてしまったみたいに、もう動けない。

泣いてしまいたかった。

大声で泣けたならどんなによかっただろうと思った。

 

 

 

END

 

 

 

 

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