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  四、桜  

 

一塵の風。

戦場を取り巻き、天空を駆け、やがて館に届く。  

知るも知らぬも、やがては広まり、館を取り巻くであろう。  

戦は終焉を迎えていた。  

館では、天を見上げ、姫は一人で酒を飲んでいた。  

どうしようもない不安。知ってしまったもの。

 

「いかがなされましたか」

「いえ。何も」  

はたはたと落ちるものを止められず、童女に見守られながら、さらにそれは流れ出るのだ。暖かい。それは涙なのか。いや・・。

「それは?」  

侍女として、主を放っておくわけにはいかない。どうにか涙を止めようと彼女も必死である。が、まだ経験は乏しく、聞くことだけが出来る精一杯のことである。

「橘様のものですよね?何か書かれていたのですか?・・・・姫様」  

書かれている。  

その事実だけはわかる。文字という存在は知っているのだから。しかし、この時代、いかに館に勤めているとはいえ、識字能力のあるものが多かったとは言えない。はたして、橘は男。まだ漢字を多く使った文である。教養の与えられた女くらいしか読めぬ。そして童女には、それが橘の書いたものか、またはほかの文献なのかさえわからぬであろう。  

しかし、それが今は救い。わかられては困る。  

どうしてこんなことを書いたの・・・・  

押さえても押さえても流れる涙。こらえきれない。  

童女の存在など、今の姫には伝わっていなかった。  

背の高い、それでいて頼りなげにみえる細身のよく知った男が目の前にいるかのようだ。出会った時は高かった声。いつの間に低くなっていたのか。声が聞こえる。いつもの「聞いていますよ」という憎まれ口が聞こえる。そんな言葉なのに、こんなにも暖かい。どうして気づかなかったのだろう。  

どうして私は・・。  

姫。そんなに輿入れが楽しみですか。  

蘇る言葉。何度も何度も。  

現実のものが見えない。彼の声、姿がまざまざと現れているかのようだ。  

そうして逃げるように部屋を出た。  

残された童女は手に取ったものが何かわからないが、棚に戻すと姫を追った。  

残されたもの・・・橘の日記。

―――姫を愛す―――  

日付は出陣の前日であった。  

 

天には月が昇っていた。あかあかと照る月。新月が終わったばかりだが、月光は明るい。照らし出された縁に、一人酒をたしなむ。

「男のようね・・・」と姫自身思っていた。  

まあ、私にお酒を覚えさせたのはあの二人ですものね。仕方がないかしら。  

橘も継も無事かしら。ねえ?  

天に向かい問いかけるが、暖かな春風が吹くだけである。  

梅はすでに散り、もう梅香は館を包んでいなかった。月光でうっすらと木は見えるが、枝先までは無論、見えない。だが、そろそろ桜の蕾も、今か今かと花開く時期を待っているに違いない。  

甘い酒の味が口に広がる。

一人で飲むことは初めてだ。いつも二人がいたのだ。継がいなくとも橘は常に傍にいた。

一人もいいけれど、やっぱり誰かいて欲しいわ・・・。

そう思いつつも、また口に酒が広がる。

どうして橘は言わなかったのかしら。

わかっていた。身分が違うからこそ言わなかったことは。けれど、「どうして?」と思わずにはいられない。

今まで彼に向かって弘種の話をしていた自分への言い訳が欲しかったのだ。弘種への想いは変わらない。しかし、酷なことをしていた。橘に・・。そんな思いが辛いのだ。

本当に私はわがままね。悪者になりたくないのだもの。

弘種への思いは変わらない。が、橘への思いは変わったのだ。いや、自覚したと言うべきか。恋人ではない。男として見ている訳でもない。

でも大切なの。恋ではないけれど、弘種様とは違うけれど、愛しているわ。大好きだもの。失いたくないの・・・・・。

どう言えばいいのか。わからない。

はらりと薄桃色の花びらが一枚落ちてきたように思えた。

はらりはらり

その時、蹄の音が夜風に乗って聞こえた。  

すぐに、

「姫様!どちらにいらっしゃいますか?!」  

と館中の女達がばたばたとせわしなく動き出す。

「どこにおいでですか?!!!」  

気でも触れたかのように叫びまわる声に反応を示すことを余儀なくされ、答えようとした時。ちょうどあの童女が目の前に現れた。  

自分が見つけた喜びと、まだ慣れない館勤めのせいか、しどろもどろに言葉を探す。

「あ、あの」

「ふふ。ここにいるわよ。どうしたの?」

「あ、あの。使者が着きまして、戦の知らせです。結果を知らせに来たようで」

「結果?もう終わったの?」  

柔らかな姫の声が少しきつくなる。重みを帯び、童女に緊張を与える。

「は、はい。そうです。でも、あ、ですけれど、勝ち戦のようです」

「勝ち?」

「はい」

「そう。良かった」  

勝ったのね。帰ってくるのね。良かった。  

気が緩み、目の前がぼやけてしまう。ふらりと体が倒れ、傍らにある柱に沿って体が落ちていった。

「大丈夫でございますか?!」

「ええ、大丈夫。安心してしまっただけよ」  

手を貸して。と右手を童女に向けると、彼女は両手を出して姫の手を支えた。  

腰が抜けたのか、ただ気が抜けすぎたのか少し時間がかかったが、姫は立ち上がるとすぐに、ささっと童女が姫の着物を整えた。  

やはりこの子はいい侍女になるわね。  

童女はこれでいいだろうかと疑問を残しているようだったが、姫が「ありがとう」と言うと、口元を緩ませた。そして言わなければと、言葉を続けた。

「あの、奥方様が呼んでいます」

「ああ、そうね。ごめんなさい。気が抜けてしまったみたい」  

二人がこうしている間も、ばたばたと少々うるさく思うほど、他の侍女たちは走り回っているようだった。

「何だか、うるさいわね・・・」  

姫が言うと、

「そうですね」  

と童女も言い、二人で笑いあった。  

そして酒もそのまま。打掛を羽織ると、広間への道を急いだ。  

童女はちらりと酒と魚を見つけると少しだけ驚いたが、手早く隠し、姫の跡に続いた。

 

「桜、こちらにいらっしゃい」  

着くと、母である奥方が上座に腰を据えていた。広間のちょうど真ん中辺りに額をついている男が今回の使者らしい。  

奥方の手招きの通り、上座へ行き、腰を下ろした。そして奥方を横目で見て安心した。  

戦をしない公家から嫁いで来た時、奥方はすでに二十歳になろうとしていた。当時としては随分晩婚である。すでに大人となり、公家とはまるで異なる生活に慣れることは大仕事であった。そのような女が、戦の前線に立つ男を夫として持ったのだ。戦だけは慣れることはいつまでたっても出来なかった。今回も使者が来る度に、今にも倒れるか泣き出すかするかのようだったのだ。しかし今眼に映る   

母は、落ち着いた雰囲気を持っている。  

勝ち戦と聞いて安心したのね。

「では、申しなさい」  

どこか凛とした奥方の声が響く。

「はい。勝ち戦でございました。殿、種晴様、弘種様、皆ご無事でございます。戦にては、分家の継様の武勲が際立ち、種晴様からもお褒めの言葉・品々を頂いたようです。但し、重臣の小川様が戦死なされたことが無念です。しかし、戦略が上手くいき、多くの死者はでませんでした。以上です」

「そう、ご無事なのですね。有難う。ゆるりとお休みなさい」

「有難きお言葉」  

そして使者は、膝の向きを変えると姫に向かった。

「申し訳ありません。忘れるところでした。弘種様より姫様に手紙を預かってまいりました」

「弘種様が私に・・・?」

「ええ、どうぞ」  

険しい顔で報告をしていたが、どうやら笑うと人のよさげな男は、どうぞと少し汚れた手紙を渡した。  

嬉しい。弘種様、ご無事でいらっしゃるのね。良かった。  

すぐに読もうと広げていると、奥方が使者に問いを投げかけた。

「そう、今回の戦略はどなたが考えたのか」

「橘殿です」

「まあ、橘が・・・」  

喜びの色を含んだ声だった。奥方も先ほどとは異なり、表情に柔らかさを取り戻している。嬉しげに胸に手を当てて、橘を思っているようだった。  

そのせいで、眼前にいる使者の微妙な変化に気づいてはいない。

「しかし・・・」  

奥方の喜びに耐えかね、使者は許されてはいないが声を発した。

「どうかしたのか」

「橘殿は行方が知れないのです」

「まあ!!!」  

胸で喜びを掴んでいた両手は口にあてられ、今は驚きと悲しみとが交じり合う混沌とした気を掴んでいる。その隣で「本当なのね」と姫の静かな声が聞こえた。

―――・・・・・・・    感謝しております。我が国を救っていただいたことを。    

聞くところによると、姫の手紙にも書かれる橘殿の見事な戦略があったようですね。    

しかし、橘殿は囮となり行方が知れないと。    

気を落とさないよう。    

我が国の立ち直りも必要ですし、婚儀は少し伸びるようです。    

婚礼の日まですこやかに。会える日を楽しみにしています。

                          弘種―――  

有難うございます。私も楽しみです。とても。とても。  

でも、どうしてでしょうね・・・・。  

涙が止まらないのです。  

喜べないのです。何一つ。どうしてでしょう。涙がこんなにも出るものなんて・・。  

どうしてでしょうね・・。  

はたはたと流れる涙は、川となり、滝となり、弘種の手紙に落ちる。

 

 

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