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高明が出かけたのは、月が輝き出してからのことだった。

清彦が牛を撫でながら、主人が乗り込むのを待っている。

「右京までやっておくれ」

「右京、でございますか?」

高明の言葉を、清彦が聞き返す。地理的な条件もあって、左京とは対照的に右京は栄えているとは言い難い。

「七条大路と道祖小路の辻近くに、姫君が住んでいらっしゃるそうなのだ」

「しかし……」

 清彦が戸惑うのも最も話で、高明が右京に通うと言ったのはこれが初めてのこと。それというのも、『光の君』が今までに通った姫君は、いずれも身分ある姫達ばかりだった。

「右京に住まうのも、それなりの理由があるのだろう。鬼でも住んでいれば別だが、住んでいるのは姫君だそうだ。気にすることはないよ」

高明に促され、少年は慌てた様子で牛を動かす。

(……気が重いな)

話によればたいそうな美人らしいのだが、何でも大変な変わり者でもあるらしい。まあ、高明に賭けた友人の話なのだから、美人でなくとも、高明のやる気を削ぐようなことは言わないだろうが。

やがて牛車が止まり、困惑した少年の声が聞こえた。

「あの……高明様、ここで……よろしいのですか?」

「ああ、何か不都合なことでも……」

御簾を上げ、屋敷を見た高明は絶句してしまった。

「……これはまるで、荒れ寺じゃないか……」

築地の外から見える屋敷は荒れ果てていて、人の住んでいる様子は全くない。屋敷を取り囲んでいる築地にも、葛が絡まってしまっている。見方によっては趣深いのだろうが、中に姫が住んでいると思うと不憫でならない。いくら右京とはいえ、流石に酷い。

「あの、高明様?」

心配そうな少年に微笑むと、門へと向かう。

この時代の恋愛は、姫君達がほとんど屋敷から出ないということもあり、垣間見で気に入った姫を見つけた男性が、文を送るというのが一般的であった。姫君は初め、女房の代筆で返事を送る。やがて、本人同士の文のやり取りとなり、やっと男性は女性の屋敷を訪れるのだ。しかし、高明はあえてそうはしなかった。『光の君』と歌われて、少なからず自信があったということもあるが、何より気乗りしなかったというのが正直なところだった。

手前まで来て見ると、荒れ寺のような外見とは対照的に門だけはしっかりしている。

一つ息を吸い込んだ。

ギイ……。

声を掛けようとしたその時である。門の方が勝手に開いたのだ。

立っていたのは、表に白生絹、裏に紅花の桜の襲を纏った女だった。女は無表情のまま、明かりを手に此方を見つめている。

「何か御用ですか?」

か細い声で女が問う。

高明は僅かに考えたが、すぐに答えた。

「姫にお会いしたいのだが……」

「……此方へ」

女はそう言うなり、くるりと向きを変え、門の中へと入っていく。

歩いている女が、高明にはどうも不自然に感じられた。歩いているというより、地を滑っているのではないかと思う。すうっと闇に飲み込まれそうになった女の背中を、高明は慌てて追った。

「これは……見事な……」

高明は、庭の途中で思わず立ち止まった。

庭に咲き誇っている桜の大木。闇の中で、桜の花びらが白く浮かび上がっていた。

人気の無い屋敷だった。蔀戸は全てあげられているのに、不思議と屋敷の中に夜の冷気は入って来ない。いくつか部屋を抜け、またいくつかの渡殿を過ぎた。それほど大きな屋敷ではないはずなのに、屋敷の造りは複雑で、他のどの物とも違う。

殺風景な部屋に通された所で女房は会釈をして去って行った。几帳も、火桶も、脇息も、その部屋にはなかった。

 御簾の向こうに姫君がそっと座っている、という部屋を想像していた高明は、物珍しげに部屋を見回す。一体何に使われる部屋なのか、あるのはただ灯を燈された灯台だけだ。

(……おかしな屋敷だ)

狐につままれたような気分とはきっとこのことなのだろう。高明は未だ自分の名すら告げていないというのに、こうして屋敷の中へ招き入れられ、人気のない部屋に一人で座しているのである。

明日の朝、気付いたら荒れ寺の中に裸で寝ているかもしれないぞ。そんなことさえ頭に浮かんでくる。

やがて、灯台の明かりがゆらりと揺れた。

「お待たせいたしました」

後ろから声が掛けられる。透き通るように冷たく、凛と響く声。

「少し、調べ物をしていまして……」

高明が振り返ると、そこに立っているのは狩衣姿の小柄な女性だった。朱色の衵に真っ白な狩衣。豊かな黒髪は足下へと流れている。

灯台の明かりに照らされ、高明は彼女の姿をはっきりと見ることが出来た。

衣装とは正反対の、華やかな面立ちをした人だった。陶器のように白い肌に、夜を吸い込んだような深い色の瞳。形のいい唇は淡く色づいている。黙っていれば牡丹のように華やかなのに、射る様に冷酷な瞳が、姫の雰囲気を変えていた。

(……これは……)

高明は礼儀も忘れて呆然とその姿を眺めてしまった。確かに顔を扇で隠そうともしない超然とした態度にも驚いたが、何よりその美しさに見とれてしまっていた。

どの姫も持っていない美しさがそこにはあった。

偽りの無い瞳が高明を見つめている。

「どうなされた?」

 高明は口篭もってしまう。どうも他の姫とは勝手が違うようだ。

 彼女はそうして、高明の入ってきた門の方角をちらりと見やった。

「お供も連れずにいらっしゃるとは……。闇夜に潜むのは、夜盗だけとは限りませんのに」

 外の牛車の様子など見えるはずもないのに、と高明は眉を寄せる。言葉遣いのせいか、姫君と話している気がしない。

 何も言わない高明に痺れを切らしたのか、彼女は腰を下ろし、パンパンと手を打った。

「お客人におもてなしを」

声と同時に、人の気配が全くなかったはずの隣の部屋から十人ばかりの女房達がすっと現れた。彼女達は皆、桜の襲を纏っている。

女房は高明の前に畏まり、杯を差し出す。白く美しい手で、瓶子からとくとくと酒が注がれた。

「何故、そのような格好をされているのですか?」

酒で唇を濡らしながら尋ねる高明に、彼女が答える。

「何故、とは?」

 彼女の狩衣姿は確かに美しいが、それでも普通の姫なら十二単か何かでいるものだと思う。

「此方の方が動きやすいのです」

 唖然としている高明を、彼女はくすりと笑った。

「……まあ、そんなことはどうでもよいではありませんか」

姫の言葉に、高明は本当にそんなことはどうでもいいような気がしてしまった。

(……本当に変わった方だ)

扇で顔を隠そうともしないところも。初めて来た男を簡単に部屋に通してしまうところも。普通だったら考えられない。奥ゆかしさこそ『美』であるというのに、奥ゆかしさの欠片も見つけられない。

だが、こんな姫がいてもいいのかもしれない。高明は彼女の態度をむしろ好意的に思った。

―――――誰も彼女と打ち解けた者はいないのだ。

(少し変わっているが、人の良さそうな方じゃないか)

「……私、藤穂(ふじほ)高明(たかあきら)と申します」

改まった様子に姫も自然と顔を上げる。

「歌を贈るつもりだったのですが、それも待ちきれずにこうして来てしまいました」

普通の姫なら頬を赤らめるであろう高明の言葉に、彼女は無表情で杯を置く。

床に置かれた杯がコトリと音を立てた。

目が合ったその瞬間。彼女の瞳が悲しそうに細められたのを高明は見た。

急に胸が高鳴る。

(……え?)

パンパン。

姫君がもう一度手を叩いた。その瞳にはもう何も映ってはいなかった。彼女の瞳は、ただ闇夜の月のように冷たく、高明を見下ろしている。

注がれた酒もそのままに彼女は立ちあがると、畏まっている女房に告げた。

「お客様はお帰りだ。門までお送りしなさい」

「え? 姫君……」

彼女は何も言わずに背を向けると、襖障子に手をかけた。

すうっと外の涼しい風が入ってくる。

ふわり。

白い狩衣の袖を風が吹き抜けた。黒髪が靡く。

舞い散る桜と、月と闇。白い背中がとても頼りなく見える。ともすれば、天へ昇って行ってしまいそうな危うさ。

今にも立ち去ってしまいそうな背中に、高明は慌てて問い掛けた。

「せめてお名前を!」

ゆっくりと高明の方に振り向いた彼女の顔には、皮肉な笑みが浮かんでいた。

凍った夜気に澄んだ声が響く。

「名も知らずにいらしたか……知っていかがなさる?」

「え?」

彼女はふん、と鼻で笑った。

「だから人など信用できぬ。愛だの恋だのくだらない。人は所詮独りなのです。そうは思いませんか?」

それだけ言うと、彼女はくるりと向きを変え、すたすたと歩いて行く。

「……」

高明はそこに取り残されたまま、しばらく彼女の言葉を繰り返していた。

(……人は所詮独り、か…)

「こちらでございます」

女房の声ではっと我に返ると、女房は明かりを持ったまま、渡殿で高明が来るのを待っている。確かに、この不思議な屋敷ではどこをどう行けばいいのかさっぱり分からない。女房がいなかったら、迷ってしまうことだろう。

高明は立ち上がり、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。

「なあ、何故彼女はあんなことを?」

その言葉に女房の背中が答える様子はない。

高明は一つため息を漏らすと、聞くのを諦め、大人しく彼女の後に続いた。

 

門まで来ると、既に清彦は主人が現れるのを待っていた。

「待たせたね」

高明は振り返り、堅く門を閉ざしてしまった不思議な屋敷を見つめた。荒れ寺のような屋敷は、月光にほの白く照らされている。

「本当に変わった屋敷だ」

深々と闇夜に光る月に目を細める。

神々しいその光は一瞬、先ほどの姫と重なる。周りに染まらず、ただ一つ輝くその姿は、独り闇に輝く。

「……月は……寂しくはないのだろうか……」

口からそんな言葉がついて出た。

高明は、不思議そうに聞き返そうとした少年に微笑み、牛車で屋敷へと帰って行った。

 

*   *   *

  

【二、夜叉姫】 

高明が参内を済ませると、数人の青年達が高明を待ち構えていたかのように寄って来た。

「藤穂高明様ですね?」

「……そうですが、貴方方は?」

男達はおどおどした様子で、高明を伺っている。

「つかぬ事をお聞きしますが、昨晩、右京に住まう橘殿の姫を訪ねられたのは、貴方様でございますか……?」

 高明は怪訝そうに眉を寄せる。

あの姫が橘という者の娘であるのかどうかすら、高明は知らないのだ。

「だとしたら、何だと申されるのか」

むっとした高明に、男は慌てた。

「気を悪くしないでいただきたい。友人が、光君にそんな話をもちかけた、と申していたものですから」

 突然の不躾な問いに気を悪くするな、というのも無理な話であろう。高明は男の口から漏れた言葉に、ややうんざりした表情を浮かべる。噂話というものは、何と早く広がることだろう。

「いかにも、訪ねましたが、それを貴方にとやかく言われる筋合いはない」

 そう言い、立ち去ろうとした高明の袖を男が引き止めた。

「まだ何か……」

 振り返った高明は、男達の尋常ではない様子に口を噤んだ。皆ひどく怯えたような瞳をして、真っ青な顔をしている。

「高明殿、仰ってください! その姫に何かされたのでしょう?」

「え……?」

「お力になります! 隠さずに仰ってください!」

「何の話をしているのです?」

 やがて困惑している高明を見つけた道風が、此方に走ってきた。先日の二人の友人も一緒だ。

 道風は彼らしくもない必死の形相で高明を見つめている。

「高明殿! 高明殿、お許しください! 我らは決して悪意があったわけではないのです!」

 全く訳が分からない。

「私としたことが……しかし、私も、あの姫が『夜叉姫』その人であるとは知らなかったのです」

 高明は驚いて道風を凝視した。

「今、何と?」

「高明殿も、ご存知なかったのですか? 橘の姫君は、あの『夜叉姫』だというのです」

 高明は眉間に皺を寄せた。

どうも話が分からない。

「『夜叉姫』?」

 噂に疎い高明は、そんな話を聞いたことがなかった。否、もしかしたら聞いてはいたが上の空だったのかもしれない。

 男達は顔を見合わせた。

「あれは、人ではないという」

「人ではない?」

「本当にご存知ないのですか?」

 高明は頷く。

 男達はもう一度顔を見合わせると、口々に話し出した。

「『夜叉』というのは、天竺の悪鬼のことを言うのだそうです。『夜叉姫』は人を食らうのだそうですよ」

「この間は、中納言様が……。犠牲者は既に十を越すとか」

「通っていた男達が姿を消してしまうのです。……恐ろしい話だ」

「彼女の元へ行った男で、生きて帰った者はいないといいます。貴方の身にも危険があったのでは、と思ったのですよ」

「私の聞いた話によると、何でも夜になると瞳が輝くとか」

「生き血を啜るとも言いますしね」

「しかし、どう見ても美しい姫君ではないか……」

高明の脳裏に姫君の顔が浮かんだ。悲しそうに瞳を細めて高明を見ている彼女の顔が。

男達は急に蔑んだような態度に変わり、汚らわしい物でも見ているかのような瞳で話し出す。

「まあ、確かに美しいと言う話だがなあ……」

「ああ。所詮は化け物よ」

「化けの皮を剥がそうにも証拠がないのではねえ」

「まあ、今は悪さもしていない。捨て置きましょう」

男達はそう言いながら笑い合った。

性質の悪い冗談。嫌な笑いだ。

高明は胸のいらつきを感じた。

彼らの笑い声と昨夜の彼女の声が重なる。

「それにしても、見たいものですね。美しい顔の下の素顔というものを」

―――――だから人など信用できぬ。

「やめておきなさい。きっと世にも恐ろしいにちがいありませんよ」

―――――愛だの恋だのくだらない。人は所詮独り。

「しかし、恐ろしい世の中になったものです。あのような化け物がいるのでは、夜も安心して寝付けませんなぁ」

「何を申す!!」

高明は無意識に叫んでいた。座はしんと静まり返り、一同の注目が高明に集まる。

「高明殿?」

心配そうにかけられた道風の声に、高明ははっと我に返った。

「……いや……申し訳ない……今日は失礼いたします」

高明は友人達に背を向けると、一人屋敷へと帰って行った。

 

眠れなかった。仕方なく高明は褥に横になったまま、天井を睨んでいた。

「……愛だの恋だのくだらない……人は所詮、独り、か……」

耳鳴りのように響くその声が、頭の中をぐるぐると回った。そして冷たい言葉とは裏腹の、哀しそうな瞳。

―――――しかし、所詮は化け物です。

―――――化けの皮を剥がそうにも証拠がないのではねえ。

友人達の歪んだ顔が浮かぶ。

自分が人々に何と言われているのか、あの姫は知っていたに違いない。清らか過ぎる姫君は、その事実をどうやって受け止めたのだろう。

―――――『夜叉姫』は人を食らうのだそうですよ。

(馬鹿な)

あんな瞳をする姫が、人など食らうはずがない。

―――――人は所詮独り。愛だの恋だのくだらない。

まだ二十歳に満たないであろう少女がその言葉を口にするまでに、一体どんなことがあったのだろう。

そこまで考えて、高明はふっと秀麗な顔を綻ばせた。

今まで、これほどまでに一人の姫のことを考えたことがあっただろうか。平安の都に浮き名を流す『光の君』は、どんな姫を前にしても、心乱されることなどなかったというのに。感じたことのない感情が、溢れてくる。

もしかしたら、これが恋という感情なのかもしれない。

そっと目を閉じると、浮かんでくるのは、姫君の姿。白い狩衣に、ぬばたまの髪を靡かせ、射るような瞳で人を見る。その瞳は凛として、気高く強い。

(今宵はこのままでいよう)

 彼女が一瞬見せた、あの哀しそうな瞳が浮かんできて時折胸が締め付けられたが、それでも構わなかった。

 不思議と優しい気持ちでいられる。いつの間にか、高明は深い眠りに落ちて行った。

 

*    *    *

 

「姫に花をお持ちしたのだが……」

高明はこの間の女房に屋敷の門の前で、まさに門前払いを受けていた。

「主人はただ今、出かけております」

 ひとつも表情を崩すことなく、女房はその場で高明に対している。先日と同じ無機質な動き。人間らしさは微塵も感じられない。

どうやら嫌われてしまったようだ。今日で五日目だというのに、女房が高明を屋敷に招き入れてくれる様子はない。

(出かけるといったって、こんな夜更けに、姫君が一体どこへ出かけるというのだ)

高明は短く嘆息をもらすと、手に持っていた花を差し出した。

「分かった。今宵会うのは諦めよう。せめてこの花を渡してくれないか? 屋敷の庭に咲いていた花なのだが、姫君に是非お見せしたくなってね」

高明は花を女房に渡すと、返答も聞かないまま牛車へ乗り込んだ。

「また来ると伝えておくれ」

 牛車の中から高明のそんな声が聞こえると、牛車はゆっくりと進み出す。

心は澄み渡った青空のように爽やかだ。どこまでも高く、どこまでも澄んでいる。

『夜叉姫』として恐れられている姫君。それを知って、平気な顔をしながら、それでも少し寂しそうな顔を見せた姫君。

―――――人は所詮独り。

そんな瞳はやりきれなくて。このままでは、彼女は理不尽な浮世を捨てて、本当に月へ帰ってしまう。少しでも辛さを分かってあげたい。隣にいることで、独りではないと分かって欲しい。少しでも、その痛みを和らげたいと思う。

 あの瞳が、いつか優しく綻んでくれたなら幸せだと思う。

「高明様、楽しそうでいらっしゃいますね」

車の外から清彦のそんな声が聞こえる。気のせいか声色がいつもより朗らかだ。

「そう見えるかい?」

「はい」

清彦は満面の笑みを浮かべながらそう答える。

高明も牛車の中で笑みを浮かべていた。その笑みはいつもの彼の笑みとは少し違う。いつもの彼の、桜のように振り注ぐ優しい笑みではなかった。年よりも少しばかり大人びて見える彼だが、今は違う。

その笑みは少年の笑みだった。そう、ちょうど清彦と同じ。太陽のようにさんさんと輝く笑顔。

それは、高明が長い間忘れていた笑顔だった。

高明の牛車が去って行った後、物陰に怪しい影が潜んでいた。

「何と、あの『光の君』が……」

 そう呟くと、男は主人の元へ駆けて行く。

 彼の報告が、この先不吉な風を呼び込むことになろうとは、高明には想像もつかなかった。

 幸せな光に包まれている彼にはまだ―――――。

 

 

 

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