□SilverMoon&GoldLion□ ぱしゃん、と水が跳ねる。 欠けていない真白の月が、水面を照らす。 とある森の泉。 湖というには狭く、池というには広いそこは泉と呼ぶに相応しい。 精霊や妖精が住む、と神話で語られるのも道理。 清冽なる月光に照らされた泉は、人には過ぎた代物だ。 人ならざる者しか入ることは許されない、神の舞台。 ―――ならば、”そこ”に居る青年は何なのか。 太陽を浴び金に光り輝く髪は、月光に晒され静かに光る。 強き意思を宿し前を見据える瞳は、水面を写して静謐なる意識に揺れる。 鍛え上げられた肉体を外気に当て、下半身は衣類ごと冷たい水に浸している。 異形の片腕を持ちながら、美しいとさえ思わせる容貌。 その半裸の姿は人間の形をしていながら、神話の神を想起させる。 彼が神話の中から出てきた闘神だと言っても、疑うものは居ないだろう。 神話の一説に語られるような場面を見てしまった少年は、息を飲んだ。 その微かな空気にさえ反応したのか、闘神が顔を上げる。 「―――フィール?」 闘神――レオンは前髪を掻き揚げながら、眉を寄せた。 見知った気配は確かに、仲間であり恋人でもある少年のものだ。 だが、何故こんな所に居るのか。 寝ているのを確認してから出てきたはずなのだが。 名前を呼べば、草陰からばつの悪そうな顔をしたフィールが出てくる。 「あの、…その、ごめん」 「あぁ?何謝ってんだ。何か、あったか?」 「違う。……起きたら、レオンが居なかったから」 だから、探しに来たのだと言外に言う。 いつも隣にある温もりがないことに気がついたフィールは、レオンを探しに来て先ほどの光景を見たのだ。 ―――神の祭壇を。 あまりにも凄すぎて、なんだか自分がその場を穢してしまったような気がした。 だが、当のレオンは気にした風もない。 「あぁ、ワリ。お前が起きちまう前に帰ろうと思ってたんだけどよ」 ばしゃん、ばしゃんと水音を立てながら岸に向かって歩いてくる。 波紋が消えては浮き、消えては浮き、消えては――。 それさえも、彼のために用意された要素でしかないのではと錯覚させる。 はっきり言って、レオンは美形だ。 いつもはそこまでレオンの顔をよく見るなんてしないし、見慣れてしまっているけれど。 そして、騒がしさに隠されてしまってレオンの本来の顔を見ることは殆どない。 静かな、穏やかな、思慮深い顔。 一人で静かに酒を飲むとき、そして今のようなとき。 レオンはその顔をする。 「何、してたの?」 「んー、何って程でもねぇよ。ただ…」 「―――ただ?」 「何となく、水に浸かりたい気分だったのさ」 そう言って水面を見るレオンに、フィールは不安を覚えた。 そのまま、神話の中にでも帰ってしまうのではないか、と。 下らない幻想だ。 ただ、その時のフィールはその考えを幻想だと切り捨てられなかった。 レオンの右腕に両手を伸ばし、強く握る。 さすがのレオンも驚いたらしく、目を見開いてフィールを見下ろした。 ―――必死な、顔。 まるで、幼子が親とはぐれてしまうことを恐れているような。 そんな顔でフィールが自分の腕を掴んで、見上げている。 レオンは少しだけ口元を緩ませて微笑した。 「―――フィール、どうした」 応えは、ない。 ただただ、腕を掴んで、レオンが此処に居ることを確かめているように。 そっと、傷をつけないように、触れるだけ。 鋼鉄の左腕がフィールの頭を撫ぜる。 敵を殺し殺戮を生む手が、こんなにも優しい触れ方をするなどフィールしか知らないだろう。 「何心配してんだ。俺は此処に居る。…お前の傍に居る。離れたりなんてしねぇよ」 「……本当?」 「少なくとも、俺はお前に嘘を吐いたことはねぇな」 「……レオン」 「おう」 「……レオン、すき」 「――おう」 神話も精霊も妖精も泉も。 あげないよ。 レオンは僕のもの。 レオンが僕を好きだと想っていてくれているうちは、少なくとも。 水に浸かっていたにも関わらず、暖かいレオンの体温を感じながらフィールはレオンの背を抱きしめた。 ―――神を愛すこども。こどもを愛す神。 語る神話も、手招きする精霊も、誘う妖精も、呑み込む泉も。 ただ、眺めることしか許されず。 神に触れられ愛せるのは、神に触れられ愛された者だけであるが故に。
こちらも燐より頂きました!!(ある種強奪とも言えなくもないが… 恐れ多くも月光浴とリクした所、こんなに綺麗で素敵な文を…!!!! 月や星が絡んだ話が凄く好きなので読んだ瞬間、感激の余り手の震えが止まりませんでした。ど…動悸が…vv 絵茶が終わった後もその文に魅せられて何度も読み返してしまった程です!(笑 この時程私は燐のファンの方にOverZenith喰らってもいいと本気で思いましたよ! もう…昇天しても良い・・・!(悦 燐、掲載許可を含めホントに有難うございますvv *ブラウザのバックでお戻りください*